「看護師としてのキャリアを優先していたら、進学のタイミングを逃してしまった。」
「自分の出産をきっかけに助産師になりたいと思ったけど、今から進学するのは不安。」
……このような声をよく耳にします。
一度社会に出ると、また学生に戻るには勇気がいりますよね。
資金面や学力・体力面の不安から、これから助産師になるのは諦めようかなと思っている看護師さんも多いのではないでしょうか。
しかし、ICU看護師から一念発起し助産師となった筆者は断言します。
助産師資格は取得して損はありません。
これからのあなたの看護師キャリアで必ず役に立つはずです。
その理由は3つあります。
- 助産師になると仕事のフィールドが広がる
- 助産師は開業ができる
- 専門性を活かしたキャリアアップがしやすい
本記事では看護師として活躍しているあなたが助産師へキャリアアップすべき理由と看護師から助産師になるにはどうしたらいいのかを詳しく解説していきます。
①助産師になると仕事のフィールドが広がる
その理由として助産師が関わる対象が、すべての発達段階にある女性とその家族であることが挙げられます。
助産師は、妊娠期・分娩期・産褥期のスペシャリストかつ女性の生涯に寄り添う仕事。
「産婆さん」という言葉から分娩がメインの仕事だと思われがちですが、実は助産師の仕事はたくさんあります。
- 妊婦健診
- 分娩の介助
- 母乳育児支援
- 産後ケア
- 子育て相談
- パパママ教室
- 性教育
- 不妊症相談
- 月経障害やPMS
- 更年期の相談など
助産師の仕事は対象の数だけニーズがあるため、おのずと仕事のフィールドも広がっていきます。
背景には以下のような理由があります。
ウィメンズヘルスへの関心の高まり
女性が健康で輝ける社会を目指した取り組みが増えたことで、ウィメンズヘルスケアへの関心は高まりつつあります。2020年頃からはフェムテック(妊娠・産後や更年期、メンタルヘルスをサポートするアイテム)という言葉も広く認知されるようになってきました。
助産師はウィメンズヘルスケアの専門家です。女性ならではの悩みを、専門的な視点からサポートすることができるため助産師の市場価値は高まってきています。
核家族化・高齢出産の増加
核家族化が進む現代では実家が遠かったり祖父母が高齢で頼れなかったりといった理由から、夫婦だけで子育てする家族が増えています。地域で暮らす家族が取り残されないようにニーズに沿った支援をするのも、助産師の大切な役割の一つです。
少子高齢化に伴い出生児数は減少していますが、そのぶん家族に寄り添った手厚い支援が必要とされ、助産師の需要は病院から地域へと広がりつつあります。
情報収集の活発化
最近では地域や企業、さらにはInstagramやYouTubeなどのSNSで活動する助産師も増えてきています。病院や保健センターに行かないと相談できなかった悩みがSNSや職場で解決できるようになりました。助産師がより身近な存在として認知されてきています。
こうした社会のニーズの変化から、助産師の仕事のフィールドは今後も拡大していく一方であるといえます
②助産師は開業することができる
助産師には開業権があるため、助産業務ガイドライン/助産所開業マニュアルに沿って助産院を開業することができます。個人で開業する分責任も伴いますが、経営方針や提供サービス(分娩を取り扱うか否か、乳房管理をメインとするのか、出張専門の助産院にするのかなど)を自由に決めて運営できるのが魅力です。
助産院は主に一対一で関わることが多いため、母親と家族ひとりひとりに寄り添ったケアができます。
③専門性を活かしたキャリアアップがしやすい
総合病院で勤務する看護師さんの悩みの一つは、人事異動ではないでしょうか。
助産師は看護師に比べて転科が少ないです。そのため専門分野での経験を積みやすいので資格取得への道のりもスムーズになります。
助産師のキャリアアップについて詳しく解説していきます。
看護資格を取得してキャリアアップ
キャリアアップできる看護資格としては、認定看護師と専門看護師があります。勤務経験が通算5年以上、うち3年間以上は専門分野での勤務経験が必要です。助産師の資格は必須ではありませんが、より専門性を高めてキャリアアップしたいという方におすすめです。
専門看護師、認定看護師ともに質の高い看護実践力・指導力・相談力が求められます。これに加えて専門看護師には患者の家族を対象とした調整力や臨床研究などの役割があります。
認定基準 | 関連領域 | |
認定看護師 | ・認定看護師教育機関で6カ月 ・認定試験 | 生殖看護、新生児集中ケア 小児プライマリケアなど |
専門看護師 | ・看護系大学大学院にて2年間で38単位の取得 ・認定試験 | 母性看護、小児看護など |
助産技術を極めてキャリアアップ
助産技術を極めるならば、一般財団法人日本助産評価機構によるアドバンス助産師を目指すのもおすすめです。
こちらも5年以上の実務経験と、助産師のためのクリニカルラダー(CLoCMiP®︎)が一定の水準(CLoCMiP®︎助産実践能力習熟段階レベルⅢ)に達することが認定条件です。
看護師免許は更新制ではありませんが、アドバンス助産師は5年毎に更新する必要があります。
最新の助産ケアと知識の質が保証された人材と認知されるため、施設内でのキャリアアップや転職にも有利です。
母乳育児支援を極めてキャリアアップ
母乳育児支援を極めるならば、各団体のセミナー参加したり養成所に入学するなどして母乳育児支援に特化した助産師を目指すこともできます。
母乳育児支援、乳房管理は助産師の特権とも言えます。産科だけでなくNICU/GCUでも必要となるスキルです。
母乳育児支援を極めると母乳外来の運営を任されたり、母乳相談をメインに助産院を開業するなど活躍できるステージが広がります。
下記は乳房管理法と母乳育児を支援する団体の一例です。
乳房管理法
- 桶谷式乳房管理法
- 堤式乳房マッサージ法
- NPO法人BSケア
- SMC方式乳房マッサージ
母乳育児支援団体
- 日本母乳の会
- NPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本
- 国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)
- NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)
趣味・特技・経験を活かしてキャリアアップ
助産師は自分の興味を深めることでもケアの幅を広げられます。
例えば体を動かすことが得意であれば、マタニティヨガやマタニティビクスなどの民間資格を取得したり、料理が得意であれば離乳食や食育のアドバイザーとなったりと趣味や特技を活かせます。
また、自身の妊娠・出産・子育て経験も強みとなり、これまでの経験や子育ての悩みを仕事に還元できるのは助産師の特権です。
看護師から助産師へのルート
では、実際に看護師から助産師になるためのルートについて解説していきたいと思います。
看護師から助産師になるには?
助産師資格を取得するためには、養成学校を卒業して受験資格を取得し、国家試験に合格する必要があります。
受験資格の取得には助産師課程を学べる学校で必要単位を取得することが条件になります。
看護師から助産師資格を取得するためのルートを詳しく説明します。
一般入試で受験する場合は最終学歴によって入学できる教育機関が異なります。
専門学校・短期大学専攻科・大学別科は3年課程で学士をもたない看護師さんでも受験資格はあります。
大学専攻科や大学院となると4年課程や学士を取得していることが条件となることが多いです。
社会人入試で受験する場合は、実習先病院での勤務経験や施設長の推薦が必要であったりするため各学校の要項に沿って願書を提出します。
学校により違いがあるので、入学を考えている教育機関の募集要項を確認し、必要に応じて問い合わせることをおすすめします。
就業年数は最低1年間、大学院は2年間となります。1年課程では単位取得・臨地実習・国家試験があるのでとても忙しい1年となります。
費用は国立の教育機関が60万円〜、私立となると120万〜300万円程度を見積もっておくといいでしょう。
国家試験の合格率は?
助産師の国家試験合格率は例年90%後半を推移しています。
合格率が高いということは、受験者の大半が助産師に値する学力が身についているということ。
学内講義や厳しい臨床実習を乗り越えて受験資格を得るまでが勝負だといえます。
出願者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
第107回 助産師国家試験 | 2,170人 | 2,151人 | 2,125人 | 98.8% |
うち新卒者 | 2,080人 | 2,063人 | 2,049人 | 99.3% |
社会人から助産学生になるメリット
社会人から助産学生になると、どのようなメリットとデメリットがあるのか筆者の経験から解説していきます。
①これまでの臨床経験が活かされる
臨床経験は学生に戻ったときに一番の強みになります。
臨床で培う基本的な看護技術、急変対応、アセスメントなどは、机上では学べないことも多いです。臨床で得た知識や経験は、実習や演習で必ず役に立ちます。看護師として産科での経験がなくてもOKです。むしろ外科やICUなど急性期看護の経験があると、助産師になってからも急変対応や術後管理ができるので役に立ちます。
②カリキュラムや講義・実習の意図がわかる
これは助産学校に限らずですが、臨床経験を経て学生に戻ると、カリキュラム、講義・演習の意図がわかるようになります。なぜこの科目を学ぶのか、学習目標の意図は何なのか、看護実践能力と結びつけて深く理解することができます。
臨床で新人教育や学生指導に携わった経験があると尚更、出された課題や実習目的の意図を汲み取ることができるでしょう。
③対象としっかり向き合うことができる
臨床にでると業務と時間に追われ、一人ひとりに向き合う時間がないのが現実です。
助産学生の実習では10例の分娩介助が必須とされています。多くの学校ではそのうちの数例を継続事例として妊娠期から分娩介助、退院までを受け持つことになります。
正直記録は看護学校の比ではなく大変なことも多いですが、対象患者さんとじっくり向き合えるのは学生のメリットといえます。
社会人から助産学生になるデメリット
①校内実習、院内実習で忙しい
助産学生は1〜2年の間で、膨大なカリキュラムと助産技術を徹底的に叩き込まれるので、正直とても忙しいです。
実習では分娩のタイミングによって夜間の呼び出しや延長することもあります。遅くまで残って分娩介助、明け方まで記録をして朝からまた実習ということもあります。
そのため、家庭のある人は家族の協力が不可欠となります。学校側は子育て中であろうが、助産師を目指す学生という前提のもと平等に対応するので、家庭の事情は学内に持ち込むことはできません。
②看護師と助産学生の両立が難しい
助産学生は基本的に忙しく、平日昼間の通学制となるので看護師として働きながら通学することは難しいです。週末の夜勤や夏季休暇を利用した勤務なら可能ですが、フルタイムでのお給料と同額の収入は見込めません。
就職先の病院で2年以上雇用保険に加入している方は専門実践教育訓練給付制度と失業保険の活用をおすすめします。学校によっては訓練校に指定されていないところもあるので、受験する学校に問い合わせてみるといいでしょう。手続きの手間はありますが、資金面を気にせず学業に専念できます。
③【退職の場合】年金や保険、税金の手続きが手間になる
助産学校の進学のために一旦退職をする方は、税金関係の手続きの手間もデメリットとして挙げられます。
勤務している看護師さんは社会保険に加入しており、退職の際には会社・病院の社会保険の変更手続きが必要となります。任意継続にするのか、国民保険に切り替えるのかを選択します。
また、これまで給料天引きされていた市民税や保険料は自費負担となります。税金は前年度の収入から算出されるため、給与がなくても支払う義務があります。前年度の所得により変動しますが、50万円程度/年は税金として見積もっておくといいでしょう。
年金の支払いが給与天引きだった場合は、退職後は自分で支払う必要があります。学生納付特例で就学中の負担が軽減される制度もあるので活用してみてください。
3月末で退職する場合は、退職後に送付される源泉徴収票をもとに翌年の2月に確定申告をする必要もあります。
手続きの手間はありますが、将来開業やフリーランスでの活動を考えている人は避けて通れない道なので、この機会に税制や社会保障制度について学びなおすのもいいでしょう。
【まとめ】助産師資格はきっとあなたの財産になります
助産師は女性の一生に寄り添える素敵な仕事です。
一度働いてから助産学生になると、看護師経験と知識が統合されて学びが何倍にも深まります。女性としてのあなたの経験も助産師のケアの一部として還元することができます。
助産師資格はあなたの人生にとっての財産となるはずです。
悩んでいるならば、今からでも遅くありません。
一緒に助産師としてキャリアアップしてみませんか?
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